ファースト・マンを観た。久しぶりに映画館で観たいと思った映画だったので、子どもたちが寝たあとのレイトショウで観に行ってきた。21時10分上映開始の館内はがら空きだったが、陣取った中央付近にはやはり真ん中で観たいひとたちが微妙に座席の間隔を開けながら集まっていた。
ぼくは映画は映像的にもサウンド的にもベスポジで観たいのであるが、エンドクレジットが流れた瞬間に席を立ちたい派でもある。ところがベスポジというのは中央付近になるから左右を塞がれると席を立ちにくい状況が生まれる。早く帰ってくんねえかなあと思いながら左右を見るが、ほとんどの場合みなさん完全に終劇して天井の照明がつくまで座っている。だからといって「すみません」と言いながら通してもらうのも苦手なので仕方なく最後まで付き合う羽目になる。
せめて音楽が楽しければなんとかなるが、アメリカではエンドクレジットなど見る人はいないので映画製作側もそこに力を入れる気はまったくないのである。だからみなさんさっさと帰りましょう。
閑話休題。
アポロ系の映画と言えば、過去にトム・ハンクスが主演したアポロ13がある。ファースト・マンがそうした今までの似たようなシチュエーション(事実をもとにした)の映画と一線を画しているのは、主人公をヒーロー扱いしていないことである。脚本だけでなく、演出でもそれは徹底していて、感情を煽るような妙な盛り上げは一切なく、淡々とそこにあったことを記録している風を貫き通している。
ニール・アームストロングという一人の男が月へ行くことになり帰ってくるまでを描いているのであるが、実際に描いているのはその事象についてではなく、ニール・アームストロング個人の内側を描いている。こころの移り変わり、思考の流れ、動揺、悩み、喜び、葛藤。棺桶に片足を突っ込んでいるような状況でも宇宙を目指す宇宙飛行士の気持ちを中心に描いた映画というのは今までなかったものではないかと思う。観る価値あり。
映画では腕時計ファンなら見逃せないシーンがいくつかある。オメガはこの映画のためにスピードマスターの当時のモデルを貸し出したと聞く。知らないひとのために書いておくと、オメガのスピードマスターはNASAに選ばれて宇宙、そして月へ行ったただ一つの時計である。アポロ13で船内のコンピュータが壊れた際に宇宙飛行士たちがスピードマスターのクロノグラフを使って計算し地球に帰還した逸話は有名である。また劇中で他の役者がつけている時計もちらりと見えたがオメガであった。
物語に弱いぼくとしてはスピードマスターが欲しくなってしまったではないか。