君の名は……ヘクソカズラ。
屁糞蔓である。昔のひとはずいぶんぞんざいな名前をつけたものである。
花や葉をちぎると臭いところからこんなネーミングになってしまった。
それにしても屁と糞が一緒になるほどだから臭いんだろうけど、名前を呼ぶたびに屁と糞を連呼しなければ
いけないなんてとても上品とは言えませんわお母様。
この時期になるとクリスマスのリースの材料としても人気がある植物である。
枯れているから臭いはない。リースを作るひとはたぶん女性が多いだろう。
その屁糞蔓いいわね。
その屁糞蔓どこで買ったの。
森でとってきたのよ、屁糞蔓。
屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞屁糞
そのうちだれかが言い出すにちがいない。
屁だの糞だの全く品が欠けていますわ。こうしてはどうかしら。そうね、屁はお便り、糞は置き手紙って
ところじゃなくって?つまり郵便カズラよ。
意味がわからなすぎてトイレが詰まりそうである。
昔のひとは良し悪しの語感には非常に敏感であった。とにかく悪しと響くのを嫌ってとことん良しに
直したものである。代表的なのは葦(アシ)である。河原に群生する植物だ。この葦はヨシになった。
吉原はもともと葦原であった。アシキリはヨシキリになって、アシズはヨシズになった。
しかし糞尿関係は自然の摂理であるから目を背けるという認識は今ほど強くなかったのかもしれない。
こんなの屁でもねえ。屁の河童。屁糞耳糞。屁垂れ。屁音記号。屁モグロビンなど屁のつく言葉も多い。
糞に至っては数え切れないほどあるのではないだろうか。それはつまり糞尿は大切な肥やしであり資源でも
あった。今のようにただ水に流してなかったことにしてしまう時代とは感覚を別にするのである。
そう考えると屁糞蔓もまた昔の日本人の精神性を表しているようでむやみやたらに名前を変えては
いけないような気がしてくるから不思議である。