少し足を延ばしてトトロの森1号を目指す。といってもぼく一人なら自転車で20分、息子と行って30分程度の距離であるが。
太陽は薄い雲の向こうでわずかにその存在を明らかにしているが基本的に曇天。森へ到着すると大砲のようなレンズをつけた
カメラを持って行き交うひとが大勢いた。野鳥撮影の愛好家たちである。ぼくはと言えば首からさげたA7IIIにLoxia35mmが
ついている。ぼくは専属モデルを撮影するためだからいいのである。鳥は好きだが鳥を撮ることは趣味ではない。
トトロの森1号はよく整備されていると言えば聞こえはいいが、立入禁止の制限が多くて少し窮屈だ。八国山のほうが
行動の自由度が高くて好きであると思った。森は意外なほどにクヌギが多い。わざと植えたのだろうか。関東ではコナラが
多く、西へいくとクヌギが増えると聞いたことがあって、実際今まで見た森ではコナラ十本につきクヌギ一本くらいが普通である。
この森ではクヌギが三割ほどあるように見えた。
冬の森散策は女性の買い物に似ている。あっち行ったりこっち来たり寄り道が多い上に目移りも多い。珍しい種があれば拾って
観察し、昆虫やその卵や繭やサナギを求めて徘徊し、鳥の鳴き声が聞こえればその方角を凝視する。趣味を同じくするもの同士
でなければ到底付き合いきれないであろう。それはぼくも女性の買い物にはまったく付き合えないことからよくわかる。
夏になると森散策の様相は男の買い物に一変する。カブトムシとクワガタを求めて猪突猛進。他のものには目もくれないのである。
至ってシンプル。実にわかりやすい。
風のない一日だった。日差しがなかったが寒すぎない。ぼくは息子とおやつを食べたりおにぎりを食べたりしながら
森を散策した。森の空気は新鮮で、ただ周囲を眺めているだけで心が落ち着いた。ぼくは何も考えないでほとんど揺れない
梢をただただ眺めていた。ルリビタキがやってきた。ミソサザイがやってきた。それからシジュウカラやヤマガラやメジロや
キセキレイやエナガやガビチョウやヒヨドリやカラスなどいつもの面子も顔をみせてくれた。そしてぼくらの心は満たされた。
トトロの森1号は狭山湖の横にある。だからここまで来たら息子に湖を見せたい。あいにく富士山は雲の中で
見えなかったが狭山の山々と湖、そしてそこに集うマガモやコガモの群れは十分にぼくらを幸せにした。
ここはもう特別な場所じゃない。いつでも来れるのだからまた来ればいいさ。そう、来週また来よう。
そうだな、今度は違うレンズをつけて来よう。キミと一緒に。