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原っぱへ行こう。

太陽に勢いが増して、春から初夏へと移り変わろうとしている五月。森の木々は色濃く葉を広げ次第に薄暗くなっていく。コナラやクヌギの樹液が香り立ち、はやくもオオスズメバチが集まりだした。あと一月ほどもすれば、ぼくらの目当ての昆虫たちが地中や朽木の中から姿を現すだろう。それまでは、森を離れて原っぱへ繰り出すのだ。野原は様々な花が咲き誇り、その花を目指して昆虫たちがやってくる。

 

 

力強い日差しを受けて、ハルジオンやアザミやタンポポやその他の名前の知らない花が太陽に顔を向けて開き、そこにコアオハナムグリやハナアブやハチやテントウムシやカメムシやオトシブミやカミキリムシやゾウムシや蝶やその幼虫たちが休むことなくせわしなく動き回っている。

 

 

息子は花につく虫を手でつまんだり、網を振るって蝶を捕まえたり、ただじっと眺めて観察したりしている。ぼくは昆虫たちにカメラを向けて写真を撮っている。意味は違えどぼくら親子は二人で昆虫をとっているのだ。ときどき珍しい昆虫を見つけるとお互いを呼び合うが、基本的にはそれぞれ自分の世界に没頭して昆虫と向き合っている。

 

 

足元に伸びる植物が目の高さになるようにしゃがんでみると、そこは昆虫たちの世界が広がっている。上から俯瞰したのでは見えなかった世界が広がっている。驚きと感動に満ちた世界だ。ぼくは足が痛くなると姿勢を変えて、いつまでもいつまでも眺めている。オスのニッポンヒゲナガハナバチが二匹やってきて、花ではなく茎と葉にかじりついたままいつまでも離れない。ああやって水分や養分を摂っているなんてまったく知らなかったなあ。

 

 

無数のナナホシテントウが、アザミにたかるアブラムシを一斉に捕食している。蟻たちが時々防衛しているが、ある程度の侵略は許しているように見える。きっと蟻たちにとっても、アブラムシが多すぎるのは問題なのかもしれない。

 

 

キリギリスの幼虫がハルジオンにやってきて蜜を吸っている。ハルジオンは北米由来の外来種で、その辺によくある雑草くらいの認識だったが、こんなにも多くの昆虫たちを生かしているんだなあ。それは同時にハルジオンの繁栄の秘密でもあるのだった。

 

 

原っぱにも昆虫が多いときとそうでないときがある。曇っているとその数はぐっと少ないし、暑すぎる日中も意外に少ない。晴れた日の午前中と、夕暮れの近い時間がもっとも昆虫たちを多く目撃できるみたいだ。

 

 

クワガタやカブトムシのシーズンがくるまで早くてもあと一月。それまで息子とぼくは森の周辺に広がる原っぱで過ごす。草木に触れ土に触れ自然に触れる。ごく当たり前のこと。決して失ってはならないこと。