RICOH GR3 F2.8 ISO800
読書会の魅力は世界が広がるに尽きる。
自分ひとりでは決して出会うことのない本に出会えるのだ。ひとつの本をみんなで読んで感想を言い合うのも面白いが、それぞれがおすすめの本を持ち寄って紹介しあうことで今まで聞いたこともない本を知ることができる。この本のそんな一冊である。
社会学というのはよく知らないが、著者の専門はマイノリティやごく普通のひとらしい。ごく普通のひとというのが大変大雑把な言い方であるが、要するに大企業のサラリーマンやって生活が安定しているひとを含まない普通のひとである。
とても共感したエッセイがある。笑いと自由というタイトルがついている。酷い話を聞いてどう反応していいかわからないときに笑ってしまうことがある。或いは自虐的に笑うこともある。
怒ったり、泣いたり、耐えたりするのと同列で笑ったりする。著者もほかのひとなら怒りや憤りを感じる場面で笑ってしまうと言っていて、ぼくはそれがよおくわかる。ぼくも笑ってしまうからである。そうした見るひとによっては不謹慎な笑いは、人間の自由というもののひとつの象徴的な現れであると書いていてなるほどと思った。
ひとつだけ引用する。
“ある種の笑いというものは、心のいちばん奥にある暗い穴のようなもので、なにかあると私たちはそこに逃げ込んで、外の世界の嵐をやりすごす。そうやって私たちは、バランスを取って、かろうじて生きている。”
この、面白くないことに対して笑ってしまう現象はずっと前から不思議に感じていて、こんなふうに言葉で説明してくれる本があるなんて思ってもいなかった。とても腑に落ちた本であった。
十把一絡げに書くが、その他のエッセイも非常に興味深い。普段まったく接点のないひとたちの世界を垣間見るのは興味本位という点でも面白いが、色々と考えさせられるという点でもっとも面白い。このひとの文章もよい。全体的に陰の暗さを纏っているが、おそらく作者の性格が滲み出ていてそれが作者の専門分野によくあっている。